花の宴も終わりを迎え、葉桜の若葉色がやさしい季節となりました。
皆様は今春、どんな桜をご覧になられましたか。
賑やかな花の宴というよりも、風で揺れる枝の音を聴きながら穏やかな観桜を楽しまれた方も多いのではないでしょうか。
洛風林の帯には一柄ずつ名前が付いており、その中に「花の宴(はなのえん)」と名付けた帯があります。「花の宴(はなのえん)」とは歌詠みの中で晩春の季語としても使われる言葉であり、この花とは特に桜の事を指していますが、帯の中では花の種類は特定をしておりません。
ふくよかな花が咲き誇るこの図柄は、初代が愛用していた古染付皿がモチーフとなっております。
この古染付は、少し歪さのある形状と、大胆に描かれた花文様が楽しく、いつまでも見飽きない佇まいです。
初代が欠かしてしまった部分を自分で直している跡も残っており…とても愛着を持って日常に使用していた事が分かります。
帯ではこの皿のおおらかさを「ふくれ織」と呼ばれる織り方で柔らかく表現しています。
洛風林の「ふくれ織」は柄の部分が袋状になっており、緩やかな織糸の流れと優しい絹艶が楽しめる帯です。
大胆でいて華やかでもあるけれど、どこかほっとした親しみを感じる雰囲気はこの古染付から生まれたものですが、帯へと落とし込む時にモチーフのどんな魅力を表現するかは、つくる者の愉しみでもあります。
人の手で作られたものも、日々愛でられていると育ってくる表情があるかと思います。
この帯の花は、そうして育てられた表情を写しています。
葉桜の記 第一回「花の宴」
2021・4・15
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