「ボハラの花」

「贈り物」は頂くのはもちろん、大切な人に準備する時間もまたわくわくと楽しいものです。贈る機会は様々ありますが、誕生日や記念日、季節の行事を一緒に楽しみながら贈り合ったプレゼントは、その後何年経っても当時の記憶を思い出させてくれるものだったりします。

ウズベキスタンの刺繍布「スザ二」も、そんな大切な記念の際に心を込めて贈られる物です。

「スザ二」とは、ペルシャ語で「針」や「針仕事」を表す言葉で、主に中央アジアで作られる刺繍布の事も意味します。

洛風林資料館所蔵の「スザ二」の中にはウズベキスタンの中央に位置する都市、ボハラ(ブハラ)で作られた物が数点あり、木綿の布に絹糸などで施された刺繍は素朴で可愛らしい印象もありますが、縦250cm×横150cmほどの大きな面積にチェーンステッチやブハラコーチングなどの技法で細かく埋め尽くされた刺繍はとても力強く、迫力を感じる存在感があります。

このボハラの刺繍布は、婚礼の儀式を迎える花嫁の為に親族が集まって作る贈り物で(花嫁も一緒に作る場合もあります。)、図柄の下描きをした布を切り分け、皆で手分けして刺繍を施した後、また繋ぎ合わせて一枚の布に仕上げます。

柄のモチーフは各家庭によっても様々ですが、その土地で栽培される綿花や唐辛子、柘榴といった作物であったり、延々と伸びる蔓や太陽などの天体を想像させる図柄もあります。いずれも「豊穣」や「子孫繁栄」「魔除け」の意味があり、いつまでも健康で豊かに暮らせるように、という家族の願いが込められています。

出来上がった布は、婚礼の儀式の際に装飾され、花嫁花婿の日除けや風除けの役割にもなった後、新居でのベッドカバーやタペストリーとして使われるそうです。

資料館に所蔵しているスザ二は製作年も場所も異なるものが数点ありますが、それぞれに違う表情があり、その土地の風土や家族の雰囲気を表しているようで、想像が膨らみます。

少し厳かな空気も感じさせるような精緻な刺繍の物もあれば、手分けした布の切れ目部分で色がくっきりと変わっていて、各自で使用した色糸が違うことがよく分かるような愛嬌のある物もあります。

細かく刺繍された針数を見ていると、婚礼の儀式までに皆が集まって準備を進めている情景が目に浮かび、少し緊張感のある喜びの雰囲気と共に「どうか幸せな暮らしを」という家族の心からの願いも聞こえてくるようです。

そんなスザ二を好んで収集していた先代である父は、このボハラの刺繍布をモチーフにした帯を母への贈り物として自作したことがありました。

ボハラ刺繍布(17~18世紀)

父は職人ではないので特に織り慣れていたわけではありませんでしたが、織物の組織や技法を理解する為に資料館に機を置き、自分で試織してみては帯づくりの参考にしていたので、織り技法についてはよく理解していました。

父の織ったボハラの帯は刺繍の布とはまた違う趣ですが、スザ二が持つ素朴で温かい雰囲気がちゃんと感じられる物です。

母から受け継いで幾度も締めていますが、少しぼこぼことしていたり、帯としては頼りない生地ではありますが、締める度にほっと柔らかい気持ちにさせてくれるのは、父から母への心のこもった贈り物だからだろうか。。と、毎回二人のことを思い出させてくれる帯でもあります。

堀江徹雄 作 ボハラ蔓花

この贈り物になった帯を元にして、その後出来上がった九寸名古屋帯「ボハラ蔓花」は、ふくれ織で製織しています。元となった刺繍布の雰囲気をそのままに、ふくれ織による絹艶が柔らかな表情の帯です。

九寸名古屋帯「ボハラ蔓花」母のペルシャ素焼きビーズを帯留めに。

                                       「ボハラの花」

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